滲出性中耳炎と鼓膜チュービング
【滲出性(しんしゅつせい)中耳炎について】
滲出性中耳炎とは?
中耳炎の一種である「滲出性中耳炎」は、「急性中耳炎」のような普通の感染症ではありません。だから痛みはありませんが、難聴、耳の閉塞感や、時に耳鳴りを伴ってかなり憂うつなものです。就学前の幼小児と中高年に多く、青少年には比較的に稀なようです。中耳に滲出液(しんしゅつえき)という液体が溜まるのですが、これは膿(うみ)ではありません。幼児の場合は、溜まっている液はねばりのある粘液性が多く、成人のものはサラサラした漿液性のものが多いという違いがありますが、とにかく一度かかるとたいへん治りにくい厄介な病気です。幼児で、音への反応が鈍そう、聞き返しが多い、などの様子があればこの疾患を疑う必要があります。
治療
お薬の内服、鼻の奥から中耳へつながる耳管(じかん)を通して空気を送る耳管通気法、鼓膜を小さく切開して液を抜き取る方法、また幼児では鼻の突当りのアデノイドという扁桃の肥大が原因のこともあり、この場合はアデノイド切除という手術を行うこともあります。これらを組み合わせて治療するのですが、いずれにしても治りは悪く、とくに幼少児では難聴による言葉の発育の遅れが問題になります。そこで、頻回の通院を必要とせず、聴力を良く保てる方法として、「鼓膜チュービング=チューブ挿入術」があります。鼓膜にはめたチューブを通じて中耳の換気をして、液の溜まるのを防ぎます。
【鼓膜チューブ挿入術(チュービング)】
当院での鼓膜チュービングの手順
鼓膜を小さなメスで少しだけ切開し、そこへ極めて小さいシリコン製の“換気チューブ”(長さ2mm)をはめ込みます。普通は鼓膜の簡単な麻酔だけで、全部で15分くらいの所要時間で診察室で出来ますが、
チューブの挿入は顕微鏡で見ながら行う細かいものですから、泣いたり、頭を動かす小児では無理なので、この場合は全身麻酔での操作が必要になります。あとは、特に異常がなければ1か月に1度くらい受診していただき、チューブの異常の有無、中耳の状態のチェックをしていきます。
鼓膜チューブ挿入術のあとの注意
お風呂とプール
子供さんでは、耳に水が入ってはと、お風呂やプールが気になります。しかし私の経験では(学会の報告でも)、普通の洗髪や水泳なら、耳に水がかかっても心配なく、特に耳栓の必要はありません。ただし水圧がかかると水がチューブから中耳へ入るので、飛び込んだり潜ったりしてはいけません。
耳掃除
当院で用いるチューブには、安全のために極く細い糸がついていますので、耳掃除をすると糸を引っ張ってチューブが外れることがあります。また綿棒や耳かきでチューブを中耳へ落とす危険がありますから、耳掃除はしないでください。
チューブ装着の期間
これが何時も私ども医師の悩みです。治りにくい滲出性中耳炎ですから、かなり長期にわたり入れておく必要があるのですが、あまり長いあいだ入れておくと、チューブを抜いたあとの穴がなかなか閉じないかもしれない、という問題があるからです。医師により意見は色々ですが、私は中耳の様子をみながら、長くても6〜8か月以内には外して経過を観察することにしております。幸いに幼児の場合は、アデノイドの縮小や免疫の獲得などが影響するのか、6歳になるころには多くの子供が治ってしまいますので、鼓膜チュービングは終わりになります。逆に言えば、それほど長い治療期間を要することが多い疾患です。
そのほかには基本的に、鼓膜チュービングによる日常生活の不自由はありません。
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