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耳あか、耳そうじ の お話 受診して来られる患者さんの中には、耳あか、耳掃除にまつわる問題を持っておられる方が結構多い のですが、”耳そうじ”について思い違いをして、かえって耳を傷つけておられる方が多いので、正しく 理解していただくために、すこし解説をしてみます。 耳はどんな作り? 耳あか、耳掃除のお話をするまえに、耳の穴はどうなっているかを簡単にご説明しましょう。耳の穴(外耳道)は長さが大体3.5p、直径0.7pで、縦・横にゆるくS字状に湾曲した管です。その外側の3分の1は、みみたぶ(耳介)から続く軟骨の上に、毛の生えた皮膚が張っており、皮脂腺や耳垢腺もあって柔らかいのですが(軟骨部外耳道)、内側の3分の2は頭蓋骨の中に入っているため下は骨で、皮膚は0.2oと非常に薄く、軟骨部のような皮膚構造もなく、骨膜と強固に結合しています(骨部外耳道)。つまり普通の皮膚とはまったく異なります。そしてその奥に、直径が約9o、厚さ0.1〜0.06oの鼓膜がすこし斜めに張っております。(乳幼児では、これらの数値は少し小さくなります)。 【外耳道の構造】 耳の穴は何故あるの? 「耳の穴」が何故あるのか、を少し考えてみましょう。太古の地球で、生物が進化して、水中から陸上(空中)へ進出したとき、水ではなく空気を伝わってくる音を聞く必要が生じました。そこで原始的な「耳」が出来てきますが、はじめは「耳の穴」はなく、「鼓膜」は身体の表面についていました。今でもカエルなどは、目玉のうしろに鼓膜が露出しています。しかしこれではすぐに傷つく恐れがあり、極めて小さな音を聞き分けるような、精巧な鼓膜・中耳はとても耐えられません。そこで生物は、進化とともに「穴」の奥に鼓膜を隠し、その上ほとんどの哺乳類では、音を集める役目をする耳たぶ(耳介)をも手にいれました。(水中生活をするクジラ類は違います)。 それでは耳の穴の奥にできる耳垢(みみあか)はどうなるの? 皮膚の細胞は一定期間で垢として落ちて、新しい細胞に生え換わります。これは鼓膜の表面のきわめて薄い皮膚でも同じことです。さて、奥に引っ込んだ鼓膜は安全になりましたが、穴の奥の方や、鼓膜からできる垢は、一体どうなるのでしょうか? 普通ならば、鼓膜の上にも垢がいっぱい溜まって聴こえなくなるはずです。ここで生物は、驚くべき巧妙な方法を獲得して、この問題を解決しました。皮膚の移動(migration)と呼ばれる、耳の中にだけ存在する機能です。どういうことかと言うと、鼓膜や耳の奥の皮膚は、鼓膜の中心から外へ向かって、ゆっくり移動して行くのです。その速さは、毎日0.05〜0.07oと云われております。その結果、鼓膜および穴の奥の皮膚は軟骨部外耳道まで出てきて、そこで垢になり、さらに顎(あご)の動きにつれて動く入口の皮膚や毛によって、穴の外へと排泄されます。つまり耳の穴には、自分をキレイにする”自浄作用”があるのです。だから手や道具を使えない四足の動物でも、耳の中に垢は溜まってないのです。なんと見事なものではありませんか? 耳垢(みみあか、じこう)とは一体どんなもの? 耳垢とよばれるものは、単なる垢だけではありません。穴の奥から出てきた、剥げ落ちた表皮と、皮脂腺と耳垢腺からの分泌物、そして埃などが混ざり合ったものです。耳垢は酸性で蛋白分解酵素が含まれて殺菌作用をもち、細菌や真菌の増殖をおさえる作用があることが証明されています。また、うすい外耳道皮膚や鼓膜を外からの刺激から保護する働きも指摘されています。つまり耳垢は耳を守る働きを持っているのです。
耳そうじ は 必要なのか? 耳そうじは行うべきか、行うべきではないのか、行うとすればどの位の頻度でするべきなのか、これらについては、今のところ明確な基準は出来ていません。しかし今まで述べてきたように、正常な耳には、もともと垢は溜まらないようにできていますから、掃除は必要ない、とも言えますが、どうしても気になるなら、月に1度くらい、多くてもせいぜい2度くらいで良いでしょう。しかし、まれには耳垢が外へ出ないで、中で固まってしまう人があり、この場合は耳鼻科で定期的に除去してもらう必要があります。また高齢になると、耳の自浄作用がうまく行かなくなってくるために、石のように硬い耳垢がたまるようになりやすいので、この場合も耳鼻科で定期的に摘出してもらいましょう。このような耳垢を無事にとるのは、かなり難しいものです。赤ちゃんの耳は、胎脂といって胎児の時からのものが溜まっている場合があり、悪臭が出ることもありますが、これを一度除去すれば、あとは大人と同じであまり掃除の必要はありません。したがって、赤ちゃんの耳は、生後に一度は耳鼻科で健診をしてもらうと安心でしょう。 しかし掃除のやり過ぎ(さわり過ぎ)は決して良くありません。 どうやって耳そうじをすれば良いの? 乾性の耳あか(日本人の8割強はこのタイプ)なら耳かきで、湿性の耳あか(白人・黒人では9割以上がこのタイプ。日本人では2割弱)には綿棒で、というのが一般的です。綿棒にベビーオイルを少量つけると具合が良さそうです。行うときには、耳かきも綿棒も短めに持ち、1pいじょう奥へは入れないこと。つまり骨部外耳道は決して触らないことです。また強くこすらないこと。その他の注意として大切なことは、子供の耳掃除でも自分の耳掃除でも、周りに人がいないことを確認しましょう。掃除をしている腕に人が当ったりすると、道具の先が鼓膜を破ったり、場合によっては中耳の細かい装置を破壊して、回復が困難な障害を起こすことがあり、非常に危険です。 耳掃除をやりすぎると・・・ 最近は風呂上がりに耳の中の湿りをとるために、毎日綿棒で耳の中を拭く、などと生活習慣のように触る人が非常に増えているようです。この人たちは例外なく骨部外耳道まで綿棒を入れるようですから、本来はキレイなはずの皮膚がただれていることが多く、こうなると痒みが強くなるので更に綿棒でこする、という悪循環に陥ります。その内にただれが穴の外まで広がることもあり、こうなってから耳鼻科へ来られる方も多いのですが、こうして長い間に傷められた皮膚を正常に戻すのはかなり困難で、長期の通院処置を要して患者さんは大変です。また時には、長い間こすり続けたために、耳の中の皮膚が次第に分厚くなって、穴は爪楊枝がやっと入るような狭窄をおこし、鼓膜が見えなくなる例もあります。そうすると狭窄部より奥の耳垢は外へ出ませんから、外耳道真珠腫という状態になり、手術が必要になることもあるのです。とにかく、”耳いじり習慣病”になることだけは避けたいものです。
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